小林深雪 泣いちゃいそうだよシリーズのメモ・感想① 1作目-5作目
小林深雪の「泣いちゃいそうだよ」シリーズを最近読み始めたんですが、これがすごく好きで、宝物みたいに心にしまっておきたくなる場面や文章がたくさんあるので忘れないようにメモしておこうと思います。
どんな作品?
このシリーズはもともと進研ゼミ中学講座の読み物として連載されていた話で、中学生という多感な時期に感じるあれこれが全部描かれたようなよくばりセット的な作品です。
基本的に、主人公は中学生の女子で、1年12話の構成になっています。高校生編もあります。
友達、部活、勉強、恋愛、いじめ、学校行事、進路、家族のことといったエピソードが詰まっており、人間関係のトラブルや将来への悩みや不安など、自分が中高生だった頃の気持ちを鮮明に思い出させて (誇張・妄想含む) くれて、共感と懐古にひたれます。
このシリーズの好きなところ
- とにかく切ない!
- 心無い言葉に傷ついたり、他人と自分を比べて落ち込んだり、失恋したり、夢を失ったり、他人を妬んだり、進路に悩んだり、自分を理解してもらえないもどかしさに苦しんだりといった、今を必死に生きている多感な10代のキャラクターたちの切ないエピソードの数々に胸がきゅっとなる。
- 季節や風景の描写が綺麗。色彩や情緒が非常に豊か
- 声に出して読みたくなるような美しい表現がたくさん出てくる。
- 内容の良さと同じくらい、ここもイチオシポイント
- テンポがよく、面白い。ハラハラドキドキするような展開。読みやすい。
- 青春!尊 く、愛おしい
- 子どものころを思い出させてくれる。
- 夢とか、将来への不安や葛藤とか、劣等感とか、社会や大人への不信感とか、大人になって忘れてしまったような多感な頃の気持ちを思い出させてくれる。
- 純粋な気持ちになれる。
- きょうだい愛、家族愛、友情がほっこり温かい
- ときに家族や友達を傷つけてしまったり、傷つけられたり、すれ違ったりする中で、お互いに相手を思いやったり愛おしく思う気持ちが育まれていく様子がとてもあったかい。尊いなあと思う。
- キラキラ・ワクワクの世界に、生きる元気をもらえる
- つらいことも悲しいこともある人生だけど、楽しく前向きに生きていこうよという強いメッセージを感じる。
あと、「あとがき」も好きです。
作品を読んでいると、作者の小林深雪先生は相当な人格者で人間として本当にできた方だなあ、何食ったらこんな素敵な物語を書けるんだろう、と思わずにいられないんですが、あとがきではおすすめの本の紹介があったりして、その答えをチラ見せしてくれます。
1作目のあとがきで「作家になりたいというお手紙をよくもらう」ということが書かれていて、初志貫徹、最近の著作として「作家になりたい」シリーズも発行されているので、ぜひ読んでみたいです。
そんな大好きな作品である「泣いちゃいそうだよ」シリーズを読んで、自分の心に残った場面や思ったことを忘れないようにメモしておこうと思います。ネタバレ注意。
今回は1作目から5作目まで一気に。
(1)泣いちゃいそうだよ
小川凜の中学2年生の話 。
お気に入りのフレーズや印象的な場面
1. 六月の美しい風景
サー。細い銀色の雨に、街が淡く煙っている。
道端で揺れる、虹色の紫陽花が、ビー玉みたいな、雨の粒をはじいてる。
六月の雨は、なんだか優しい音楽みたいだ。
表現が美しすぎる…
宝物みたいにどこかにしまっておきたくなる文章。
シリーズを通して六月はグレイの雰囲気、曇った空気、雨、紫陽花がよく登場するので注目。
2. 優雅な朝食の風景
成績不振で吹奏楽部をやめさせられそうになっている気まずい朝食の場面になんだか憧れを感じた…。 (話の本筋とは無関係だけど)
というのも、この場面はつまり、区立中学に通い、庭付きの一戸建てに住み、朝食にハニーバタートーストとカフェラテを楽しんでおかわりを用意する余裕まであるゆったりとした時間を過ごす、優雅な中学生女子の生活だから。(母親に釘を刺されている場面であることを除けば)
自分の中高生時代の朝といえばいつも遅刻しそうで、適当なパンとかご飯を胃に流し込んで急いで支度して学校に行くっていうバタバタの朝ばっかりだったので、うらやましい。(毎晩夜ふかししてるからいけないんだけど)
3. 青春すぎるフレーズ
「小川、夏休みのサッカー部の試合、応援にこいよな! 絶対だぞ。」
広瀬の思いがけない言葉が嬉しくて、しゅわっ、心の中でサイダーの泡がはじける。
(中略)
ときめきが心をくすぐって、夏の風に、ひまわりが揺れた。
こんなに爽やかな日本語ってあるんだ…
4. 失恋にたそがれる夏の終りの寂しい場面
九月の夕暮れは、ほんのり秋の香り。
季節は、駆け足ですぎて、中二の春も夏も、もう二度と戻らない。
もうすぐ、秋がくる。
秋が来たら、広瀬とすごした楽しかった春も夏も、過去になって、消えてしまうんだね。
凜が勝手に期待して勝手に失恋する場面で、夏の終わりという季節描写と相まってすごく寂しくて切なくて、印象的な場面に感じた。
(2)もっと泣いちゃいそうだよ
中3受験生になった凜の1年間の話。受験生の話ということで進研ゼミらしさが強めに出ている。(のでストーリーの面白さとしては1作目のほうが上かな)
お気に入りのフレーズ・印象に残った場面
1. 凜が容姿の陰口を聞いて泣いてしまう場面
言葉の殺傷能力の認識が未熟な子ども時代って、悪気もなくむき出しの鋭利な言葉を振り回してしまいがち。
その一方でその悪口を受ける側も、まだ耐性が低いので、大ダメージとなってしまう。
そう考えると子どもの世界ってかなり危険で恐ろしいんじゃないかな…。
2. 「鼓動が夜に溶けて、きゅんとハートにレモンを絞ったように甘い気持ちが胸に広がっていく。」
初めて広瀬に下の名前で呼ばれたときの凜のときめきを表現したフレーズ。
甘酸っぱさを表すとてもキレイな表現にびっくり。 冷静に考えるとよく意味がわからないけど とにかく字面が良すぎる。
3. 凜が蘭の好きな相手を二度奪っていた話
大好きな姉と同じ人を好きになってしまった妹。別の人を好きになったら、今度はその相手は姉のことが好きだった。
姉を憎むこともできないので、 うーん、つらい。いたたまれない
4. 「グレイがかったミルク色の空。こんな日は天使が空を横切っていきそう。」
2学期の終業式、クリスマス当日の空の描写。
小林先生の色彩表現は本当に綺麗で豊か。
いつも「こんな日本語ってあるんだ」とはっとさせられる。
5. 「いま、ものすごく落ち込んでるんだよ!」
推薦入試に落ちたばかりの凜が広瀬から理性的なアドバイスを受けた時の心情を描いた場面。
わたし、十分、がんばったよ。これ以上、がんばれって言うの?
わたし、拒絶されたんだよ。選ばれなかったんだよ。この高校に。
そう思ったら、もうがんばれない。わたし、そんなに強くないよ。
いま、ものすごく落ち込んでるんだよ!
ふつうは、落ち込んでいるときには、正論を受け入れることはできない。
6. 「生きるってことは、毎日を少しでも昨日よりマシにしていくってことなんだから。」
ちょっと沁みる言葉だね。
(3)いいこじゃないよ
凜の1歳下の妹、小川蘭の中学2年生の物語。
蘭は、容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の才色兼備。でも自分の意思を主張するのが苦手で八方美人な自分に葛藤を抱えている。
誰からも自分を理解されず苦しんでいた蘭は、唯一自分を理解してくれる三島くんに恋をする。
ドラマチックな展開にハラハラドキドキする作品。正直かなり面白い。
お気に入りのフレーズ・印象に残った場面
1. 「誰かを嫌うってことは、嫌うその人の心の中に原因があるんだよ。」
クラスメイトの石田さんに嫌味を言われ傷つ いた蘭に対し、三島くんがかけた言葉。
物語終盤で、蘭を妬んでいた石田さんは蘭の素顔を知って、自分が蘭を妬んで意地悪をしていたことに気づき、反省し謝る。他人に突っかかる人の心理の根底にあるのって妬みなんだろうね。
2. 蘭が失恋にひどく傷つく場面の文章
その瞬間、足下の床がなくなったような気がした。
ショックで心臓が止まりそうになる。
――まだ好き。
その言葉が、ナイフになって、わたしの心に突き刺さる。
そして、突き刺さったところから、血があふれる。
痛くて痛くて、たまらないよ。
グサッと心に傷を負う様子。とても暴力的で痛そうな表現。切ない…!
シリーズ中でよく「痛くて痛くて、たまらないよ」と同じようなフレーズが出てくるけど、なんか、この文体が好きというか、グッとくるものがあるんだよね…
3. 蘭と三島が両方同時に失恋し、物語が大きく動く場面
図書室で広瀬と一緒に勉強している凜を目撃した三島くんがすごく悲しそうな顔をしたのを見て、蘭は、三島くんが凜に未練があることが分かってしまいショックを受ける。やるせなさに耐えられなくなった蘭は自暴自棄になって三島くんに「カレがいたって、まだ好きなんでしょ? 好きなら好きって言えばいいじゃない!」と吐き捨てる。
ここらへんの展開がすごく面白くて引き込まれる。
4. 自分の気持ちに蓋をしてしまう自分を許せない場面2箇所
ほら、わたし、いいこじゃない。
今だって、三島くんと石田さんがうまくいかなければいいって、ほんとは、心の底では思ってるんだ。
こん な自分がほんとに嫌い。大嫌い!
いつだって、わたし、正直じゃない。自分のほんとうの気持ちを折り紙みたいに小さくたたんで、心の奥にしまってる。
でも、誰かを傷つけたり、なにかを壊してまで、自分の気持ちを押しとおせないよ。
優等生。品行方正。
こつこつ勉強して、規則も守って、大人や親に褒められる、いいこ。
いいこなんてやだな。いいこはつまんないな。そう思ってきたのに、変わりたいのに、わたし、やっぱり、いいこのままだ。そんな自分が嫌い。
大嫌い!
一生懸命で真剣なアイデンティティの悩みって見ていてグッとくるものがあるよね……
でも冷静に考えると、こんなに応援したくなる理由には、やはり蘭が誰もが羨む天使のような美少女だからっていう要素が結構あるような気がする(最悪の感想)
5. 「人は、くじけそうになったとき、誰かがかけてくれた優しい一言や、けなげに咲く一輪の花の美しさに心を動かされては、また、立ち直って生きていくことができる。」
これは作者が伝えたい大テーマの一つだと思った。
作品中の要所で草花の色んな表情が描かれているのでこのメッセージに説得力が出ている。
小林深雪先生の目に映る世界はどんなに美しいだろうか。いろんな草花の種類を知りたくなる。だから電子図鑑買っちゃった。
(4)ひとりじゃないよ
凜が中学を卒業して春休みのときの話。いじめがテーマになっている。
お気に入りのフレーズ・印象に残った場面
1. 美しい季節や自然の描写
はっとするような風花雪月の繊細で美しい 描写がよく出てきて、思わず声に出して読みたくなる。
季節の草花の種類が豊富に出てくるところが風情あるなあと思う。
「だって、ママの竹の子ご飯は最高!」
夕食は、竹の子とグリンピースの炊き込みご飯。菜の花のおひたし。あさりのお吸い物。空豆と桜えびのかきあげ。食卓に春があふれてる。
部屋の窓から、夜空を見上げる。
春の宵。満天の星。レモンみたいな黄色いお月様。柔らかな風が、沈丁花の甘い香りを運んでくる。
海がくしゃくしゃにした銀紙みたいに光ってる。
ツタの絡まるレンガの門をくぐると、よく手入れされた、芝生のお庭に出る。
白い椿、黄色いレンギョウ、ピンクの沈丁花。たくさんの花々が咲き乱れてる。
2. 人の醜さがほのめかされる場面
「女子って怖いよ。自分より可愛くてモテる子を『でも、あの子は性格悪いよ。』とか『男好き。』とかうわさしたりする。蘭もやられたもんね。」
「バレたっていいのよ。まわりが信じなくたって。わざと、わたしの耳に伝わって、わたしが傷つくようにって、計算して言ってる悪口だもん。」
蘭をイジメてた子たちは、自分の嫉妬とか、ねたみやひがみを直視したくないから、蘭を悪い子に仕立てて、蘭にイジメられる原因があるんだ、ってことにしてたんだよね。
ほんとに、人間って怖いね。
いくらでも、そうやって、自分を正当化できる。
自分の都合のいいように、脚色できる。
3. 「大人はわかってくれない」という気持ちを思い出させる場面
「そうだよな。なにもい死ぬことはないよな? 死ぬ気になれば、なんでもできるんだ。」
「パパ、それは違うと思うよ。」
蘭が言う。
「死にたいくらいつらいときには、なんにも考えられないと思う。」
大人たちが、あれこれイジメについて語っているけど、なんだかずれてるんだよね。
今のパパみたいに。
そして、そのずれは、ほんのちょっとのことなんだけど、その距離が、どうしても届かないほど遠くに感じてしまう。
だから、子供は大人に相談しなくなるのかもしれない。
大人から見たら、とっても小さなこと、ささいなこと、簡単に解決できそうなこと。
それが、子供にとっては、とてつもなく大きく感じることが、あるんだよ。
大人から見たら、ばかばかしいことでも、小さなほころびの繕い方が、わからないことがあるんだよ。
子どものころ確かに「大人の考えってってなんかズレてるんだよな」って思ってた。
今、大人側になってしまってそんなことは忘れてしまっていたけど、もう既に今の子どもたちの感覚と大きな隔たりがあるに違いない…
4. 凜の成長
広瀬の祖父が亡くなり涙を流す広瀬を見た凜は、まわりのみんな誰だって心に寂しさを抱えて生きているということに気づき、いつでも自分だけが寂しい思いをしているように考えていた自分が子供だったと反省する。
『いいこじゃないよ』番外編 石田明依 編
蘭に意地悪していた石田明依が、自分が蘭を妬んで、ひがんでいるだけでなんの努力もしていなかった自分を 直視して、みじめさ、やりきれなさ、寂しさ、せつなさに打ちひしがれる話。
人に嫉妬し憎むのは楽で、簡単に欲求不満を解消できてしまうので、人間関係のトラブルや、インターネットのいざこざの多くってここからやってくるんだなと思う。
作者の小林先生は、歪んだ心を持ったキャラクターをちゃんと改心させてくれるので助かる。
(5)ほんとは好きだよ
3作目 いいこじゃないよ の続編。小川蘭の中学3年生の話。
将来のこと、友達のこと、恋愛のことを真剣に考えれば考えるほど行き詰まってしまい、悩み苦しむ。
内容が結構盛りだくさんだったのか、個人的に印象的なシーンがたくさんある。
お気に入りのフレーズ・印象に残った場面
1. 「春は何度でも、新しいスタートラインを引いてくれるから好き。」
4月より
春は何度でも、新しいスタートラインを引いてくれるから好き。
新しいクラス。新しい教科書。新しい担任の先生。新しい春がいっぱい。
いいフレーズだ…
2. 悩みがあるとテニスに打ち込む姿が印象的
悩みごとがあったり大事な選択を迫られたりするときに、テニスに打ち込む姿が好きで、とても印象的に感じた。必死に生きようとしているそのひたむきさに心打たれるのかな。
3. きょうだい愛感じる場面
小川姉妹の仲が本当に良く、見ていてとてもあったかい気持ちになる。
性格が真反対の姉妹は、しばしば、お互いに、相手のほうが人気でまわりから愛されていると思い込んで、嫉妬したり惨めな気持ちになったり、すれ違いが起こる。
でも、お互いに、生まれたときからずっと一緒だった大切な存在なので、決して相手を嫌いになることができない。どんなときも二人の間には思いやりが溢れている。
そういった瞬間がこのシリーズには多く登場する。すごく良い。
性格が正反対の仲の良い姉妹を描く小林先生の作風のルーツは児童書「ふたりのロッテ」にあるらしい ので、ぜひこれもチェックしたい。
4. 「ひとりひとりは、みんな違うんだよ! わたしは、わたしなのに!」
6月より
今どきの中学生? その言葉が、胸にひっかかってる。
大人は、そうやって、すぐに、ひとくくりにしたがる。
でも、ひとりひとりは、みんな違うんだよ! わたしは、わたしなのに!
蘭の率直な叫びに心を打たれる。
誰しもこういうふうに思ったことはあるはずなのに、なんとなく生きているとそういう気持ちを忘れてしまって、つい他人を何かのグループに押し込めて考えてしまいがちなので反省。
5. お互いの不信にすれ違う6月の場面
恋人の三島くんとの帰り道で、蘭は、三島くんが凜の話ばかりすることに嫉妬して、軽いケンカが始まってしまう。でも実は三島くんの方も嫉妬心を抱えていて、蘭が太宰修治と仲良くしていることに対する不満を口にする。
ここ、好きな人と仲良くしている異性に嫉妬する感じとか、自分はその人に比べて相手にふさわしくないんじゃないかと自信が無くなって落ち込む感じが、ちょっと共感できる。あるよねそういうことって。
また、この場面の表現が美しくて魅 せられる。自然表現とキャラクターの心情をマッチさせる技術の高さにしびれる。
このあとすぐに、三島くんが蘭に虹が出ていると電話して仲直りするんだけど、ストーリーが浅いというよりは、テンポよく、無駄にこじらせないようにしているというのがこのシリーズの好きなところでもある。わたしってば、自分のことは棚に上げて、お姉ちゃんのことで、三島くんばっかり責めてた。
でも、がまんしてたのは、三島くんのほうだったんだ。
そのとき、ざあっと、灰色の空から雨が降ってきた。銀色の無数の針が、わたしの全身に突き刺さる。嘘つきのわたしに、針千本の痛み。
6. 親子愛
(7月より)
「蘭が生まれてきたとき、パパもママも、ほんとうに嬉しかったんだ。もう、男も女も関係ないよ。ママは、何度も『生まれてきてくれて、ありがとう。』って言って、蘭を抱きしめてた。」
蘭。まるで、生まれて初めて聴く音楽のように、自分の名前がキレイな旋律に聞こえる。
ここも良かったですね〜〜
7. 8月の景色
ピアノ教室から少し歩いたところに、土手がある。
柳がゆらゆら揺れる、川沿いの道。夏草の緑の波。
夏の夕暮れの風が、涼しくて気持ちいい。
修ちゃんの髪が、夏の光に茶色に透き通って見える。
美しい情景が鮮明にイメージされる…
8. 真剣に何かに打ち込むことの効用
9月より 三年生を送る会としてのテニストーナメントの場面。
ひさしぶりのテニスは、ほんとうに楽しい。
体を動かしてい ると、イヤなことも忘れてしまう。無心になれる。
試合の前の緊張感。スマッシュが決まったときの爽快感。
勝ったときの嬉しさも、負けたときのくやしさだって、部活を引退した今となっては、すべてが愛しい。
練習がキツかったり、後輩に嫌われたり、正直、やめたいと思ったことも何度もある。
でも、わたし、テニスがほんとは好きだよ。大好きだよ。
バシッ!
激しいラリーのあと、わたしの打ったボールが、ラインぎりぎりに決まった。
青春だねえ。
蘭の真剣な姿を見た石田明依は、妬むだけでなんの努力もしてこなかった自分の過ごしてきた時間の無意味さに気づいて、やるせない気持ちになる。
「あたしなんか、帰宅部で、部活を必死にがんばったこともない。勉強も嫌いで、テスト前に、必死で勉強したこともない。」
(中略)
「いい気になって、せせら笑っているうちに、自分は、どんどん置いていかれた。蘭や三島やみんなは、努力したぶんだけ、あたしの知らない『幸せの時間』をいっぱい経験していたのに。今日、それが、はっきりわかった。あたし、今まで、中学でなにをしてたんだろう。」
周りを小馬鹿にして自分の成長が停滞している間にどんどん置いていかれていくのって、ちょっと心当たりがあって…。大事な気づきだと思う。
「男子、三日会わざれば刮目して見よ」ということわざって、その通りだと思うし、逆に自分だって集中してなにかに取り組めばそうなれる可能性を持っているということは常に忘れないようにしたいと思う。
9. 「ガラスみたいに透明な、ひんやりした 秋の風が、わたしの頬をなでていく」
11月より
木立は紅葉が始まっている。土と落ち葉の匂いがする。
あちこちに散らばっている黄色い銀杏の葉が、地面に模様を描いている。
ガラスみたいに透明な、ひんやりした秋の風が、わたしの頬をなでていく。
蘭が、ずっと一緒にいた幼馴染の太宰修治からパリにピアノ留学に行くことを告げられてショックを受ける場面。空気そのものを宝物にたとえたような表現に、二度と戻らない時間の儚さを感じて、美しくも切ない〜〜
10. 修治が蘭に『別れの曲』を弾く場面
12月。蘭の決意表明でパリ留学に行く決心がついた修治は蘭に『別れの曲』を弾く。
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