迫真の氷結晶

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小林深雪 泣いちゃいそうだよシリーズの感想メモ① 1作目-5作目

2023-07-09
  • #生活
  • #読書メモ

数年前に、知り合いに紹介されて小林深雪の「泣いちゃいそうだよ」シリーズを知った。 後になって、しっかり読んでみるとその世界が自分の好みに刺さってすごく好きになってしまった。

どんな作品かというと、基本的には、 友達、部活、勉強、恋愛、いじめ、家族のことなど、悩み多き中学生女子の1年間をテーマにした12ヶ月12話の物語。ベタベタの少女漫画感が強めだけど、そこにとどまらず小中学生の人生を導いてくれる心強い味方のような作品。

進研ゼミで連載されていた話とだけあって非常に健全で平和、はっきり言って都合が良い世界だけど、でも決して単純すぎるわけじゃない。

作者があとがきで「芸は人なり」「魅力的な人になってください」と言っているように、小林深雪先生自身が本当に魅力的な人なんだろうなあと思わせる、大好きな作品。

このシリーズのどんなところが好きかというと―

  • とにかく切ない!
    • 心無い言葉に傷ついたり、他人と自分を比べて落ち込んだり、失恋したり、夢を失ったり、他人を妬んだり、進路に悩んだり、自分を理解してもらえないもどかしさに苦しんだりといった、今を必死に生きている多感な10代のキャラクターたちの切ないエピソードの数々に胸がきゅっとなる。
  • テンポがよく、面白い。ハラハラドキドキするような展開。読みやすい。
  • 青春!懐かしい!
    • 学校生活あるあるがふんだんに盛り込まれていて、自分自身の懐かしい青春時代を思い出したり、架空の思い出に浸れて胸がいっぱいになってしまう。
  • 季節や風景の描写が綺麗。色彩や情緒が非常に豊か
    • 声に出して読みたくなるような美しい表現がたくさん出てくる。
  • 子どものころを思い出させてくれる。
    • 夢とか、将来への不安や葛藤とか、劣等感とか、社会や大人への不信感とか、大人になって忘れてしまったような多感な頃の気持ちを思い出させてくれる。
    • 純粋な気持ちになれる。
  • きょうだい愛、家族愛、友情がほっこり温かい
    • ときに家族や友達を傷つけてしまったり、傷つけられたり、すれ違ったりする中で、お互いに相手を思いやる気持ちや愛おしく思う気持ちが育まれていく様子がとてもあったかい。尊いなあと思う。
  • キラキラ・ワクワクの世界に、生きる元気をもらえる
    • つらいことも悲しいこともある人生だけど、楽しく前向きに生きていこうよという強いメッセージを感じる。

あと、「あとがき」も好きで、作者の人格が感じられたり、おすすめの本の紹介があったりして、「何食ったらこんな素敵な物語を書けるんだろう」という疑問への答えをチラ見せしてくれる。

1作目のあとがきで「作家になりたいというお手紙をよくもらう」ということが書かれていて、初志貫徹、最近の著作として「作家になりたい」シリーズも発行されているので、ぜひ読んでみたい。


そんな大好きな作品である「泣いちゃいそうだよ」シリーズを読んで、自分の心に残った場面や思ったことを忘れないようにメモしておこうと思う。ネタバレ注意。

まずは1作目から5作目まで。

(1) 泣いちゃいそうだよ

小川凜の中学2年生の話。

お気に入りのフレーズや印象的な場面

六月の美しい風景

サー。細い銀色の雨に、街が淡く煙っている。
道端で揺れる、虹色の紫陽花が、ビー玉みたいな、雨の粒をはじいてる。
六月の雨は、なんだか優しい音楽みたいだ。

表現が美しすぎる…

宝物みたいにどこかにしまっておきたくなる文章。

シリーズを通して六月はグレイの雰囲気、曇った空気、雨、紫陽花がよく登場する。

優雅な朝食の風景

成績不振で吹奏楽部をやめさせられそうになっている気まずい朝食の場面で、物語の流れとは何も関係ないけど、23区内の庭付きの一戸建てに住み、朝食にハニーバタートーストとカフェラテを楽しんで、おかわりを用意する余裕まであるゆったりとした時間を過ごす中学生女子の生活になんか憧れた…

自分の中高生時代の朝といえばいつも遅刻しそうで、適当なパンとかご飯を胃に流し込んで急いで支度して学校に行くっていうバタバタの朝ばっかりだったので、うらやましい。(毎晩夜ふかししてるからいけないんだけど)

青春すぎるフレーズ

「小川、夏休みのサッカー部の試合、応援にこいよな! 絶対だぞ。」
広瀬の思いがけない言葉が嬉しくて、しゅわっ、心の中でサイダーの泡がはじける。
(中略)
ときめきが心をくすぐって、夏の風に、ひまわりが揺れた。

一言一句無駄のない、あまりにも青春すぎるフレーズ…

人生のワクワク感を表現したフレーズ

夏休みになってから、わたし、ひとりで浮かれていたよね。
毎日、楽しい夢でも見たように、期待に満ちた気持ちで目覚めて、元気いっぱいだったよね。

夢が砕かれるシーンで出てきた言葉だけど、ワクワクした毎日を表現する素敵な言い方だなと思った。

失恋にたそがれる夏の終りの寂しい場面

凜が本格的に失恋して夏の終りにたそがれている場面が切ない。

九月の夕暮れは、ほんのり秋の香り。
季節は、駆け足ですぎて、中二の春も夏も、もう二度と戻らない。
もうすぐ、秋がくる。
秋が来たら、広瀬とすごした楽しかった春も夏も、過去になって、消えてしまうんだね。

(2) もっと泣いちゃいそうだよ

中3受験生になった凜の1年間の話。受験生の話ということで進研ゼミらしさが強めに出ている。(もともと進研ゼミの情報誌に連載されていた作品だからね)

1作目のほうが物語としては面白いかな。

生きるってことは、毎日を少しでも昨日よりマシにしていくってことなんだから。

これはちょっと沁みる言葉だね。

お気に入りのフレーズ・印象に残った場面

「鼓動が夜に溶けて、きゅんとハートにレモンを絞ったように甘い気持ちが胸に広がっていく。」

初めて広瀬に下の名前で呼ばれたときの凜のときめきを表現したフレーズ。

甘酸っぱさを表すとてもキレイな表現にびっくり。 冷静に考えるとよく意味がわからないけど、 とにかく字面が良すぎる。

「グレイがかったミルク色の空。こんな日は天使が空を横切っていきそう。」

2学期の終業式、クリスマス当日の空の描写。小林先生の色の表現はいつも豊かで綺麗。

やっぱり白って200色あるんだね。

「いま、ものすごく落ち込んでるんだよ!」

凜が推薦入試に落ちたときのセリフ。 もうこれ以上どうしてもがんばれないときもある。

わたし、十分、がんばったよ。これ以上、がんばれって言うの?
わたし、拒絶されたんだよ。選ばれなかったんだよ。この高校に。
そう思ったら、もうがんばれない。わたし、そんなに強くないよ。
いま、ものすごく落ち込んでるんだよ!

(3) いいこじゃないよ

容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の才色兼備、でも自分の意思を主張するのが苦手で八方美人な自分に葛藤を抱える、中学2年生の小川蘭の物語。

誰からも自分を理解されず苦しんでいた蘭は、唯一自分を理解してくれる三島くんに恋をする。そのドラマチックな展開にハラハラドキドキする作品。

蘭の才色兼備さに関する言及

シリーズを通して、そこは譲れない要素なのか、蘭が相当な美少女として描かれている場面がやたらと登場する。シリーズ作品中でのそういった言及をメモしてみる。

1 「一緒に街を歩いていると、男の子から、蘭だけ、声をかけられるんだよ!」

(1作目 7月 より)

2 「子供のときから、天使みたいに可愛かった。華奢な体つき、ぱっちりした瞳、白い肌。」

「それにしても、小川の妹って、可愛いよな。姉妹なのにまるで似てないって、どういうこと?」

蘭は美人だし、成績優秀、スポーツ万能の自慢の妹。
子供のときから、天使みたいに可愛かった。華奢な体つき、ぱっちりした瞳、白い肌。

(1作目 1月より)

3 「蘭の大きな瞳に、みるみる、涙がたまってくる」

「お姉ちゃん、ひどいよ」
蘭の大きな瞳に、みるみる、涙がたまってくる。

(1作目 1月より)

4 「手足がすらっとしていて、目が大きくて、まつげが長くて、子鹿のバンビみたいだもん」

手足がすらっとしていて、目が大きくて、まつげが長くて、子鹿のバンビみたいだもん。こんなに可愛かったら誰とだってつきあえるんだろうな。 いいなあ。蘭は、よりどりみどりで、ちょっと、いや、かなりうらやましい。

(2作目 7月より)

5 「振り向いた顔は青ざめていたけど、とてもきれいだった」

蘭が好意を寄せる三島くんが姉の凜に告白してしまい、蘭がショックで自室で泣いているところに、凜が話しかけにくるシーン。

「蘭。やっぱり、三島くんのこと。」
「そう、好きだよ。」
蘭がきっぱり、そう言って振りむいた。 振りむいた顔は青ざめていたけれど、とてもきれいだった。

(2作目 9月より)

6 「コートを駆ける子鹿みたいな足」「鍵盤の上を走る白い指」「大きな瞳の美少女」

彼女の名前は、小川蘭。クラスの委員長。
小脇にテニスラケットを抱えてさっそうと歩く姿が、誰よりも人目を引く。
コートを駆ける子鹿みたいな足。
合唱大会では、伴奏のピアノを弾いていたっけ。
グランドピアノの鍵盤の上を走る白い指。
大きな瞳の美少女。

(4作目『ひとりじゃないよ』番外編 石田明依 編より)

お気に入りのフレーズ・印象に残った場面

「誰かを嫌うってことは、嫌うその人の心の中に原因があるんだよ。」

「誰かを嫌うってことは、嫌うその人の心の中に原因があるんだよ。」

クラスメイトの石田さんに嫌味を言われ傷ついた蘭に対し、三島くんがかけた言葉。

物語終盤で、蘭を妬んでいた石田さんは蘭の素顔を知って、自分が蘭を妬んで意地悪をしていたことに気づき、反省し謝る。他人に突っかかる人の心理の根底にあるのって妬みなんだろうね。

蘭が失恋にひどく傷つく場面

蘭が失恋する場面。

その瞬間、足下の床がなくなったような気がした。
ショックで心臓が止まりそうになる。
――まだ好き。
その言葉が、ナイフになって、わたしの心に突き刺さる。
そして、突き刺さったところから、血があふれる。
痛くて痛くて、たまらないよ。

グサッと心に傷を負う様子。とても暴力的で痛そうな表現。切ない…!

(凜も蘭も同じような道をたどるね。)

蘭と三島くん両方同時に失恋し、物語がドラマチックに動き始める場面

広瀬と一緒に勉強している凜を目撃した三島くんはすごく悲しそうな顔をする。それを見た蘭も、三島くんが姉の凜に恋心を抱いているというウワサが本当であることが分かってしまいショックを受ける。やるせなさに耐えられなくなった蘭は自暴自棄になって三島くんに「カレがいたって、まだ好きなんでしょ? 好きなら好きって言えばいいじゃない!」と吐き捨てる。

ここらへんの展開がすごい盛り上がって面白かった。

自分の気持ちに蓋をしてしまう自分を許せない場面2箇所

ほら、わたし、いいこじゃない。
今だって、三島くんと石田さんがうまくいかなければいいって、ほんとは、心の底では思ってるんだ。
こんな自分がほんとに嫌い。大嫌い!

いつだって、わたし、正直じゃない。自分のほんとうの気持ちを折り紙みたいに小さくたたんで、心の奥にしまってる。
でも、誰かを傷つけたり、なにかを壊してまで、自分の気持ちを押しとおせないよ。
優等生。品行方正。
こつこつ勉強して、規則も守って、大人や親に褒められる、いいこ。
いいこなんてやだな。いいこはつまんないな。そう思ってきたのに、変わりたいのに、わたし、やっぱり、いいこのままだ。そんな自分が嫌い。
大嫌い!

本当に真面目。でも不器用なんだね。

たぶん、小林先生の伝えたいメッセージ

人は、くじけそうになったとき、誰かがかけてくれた優しい一言や、けなげに咲く一輪の花の美しさに心を動かされては、また、立ち直って生きていくことができる。

小林深雪先生の目に映る世界はどんなに美しいだろうか。

作品中に草花がよく出てくるところがなんか良いなあと思う。いろんな草花の種類を知りたくなる。

4作目 ひとりじゃないよ

テーマはいじめ。凜が中学を卒業して春休みのときの話。

お気に入りのフレーズ・印象に残った場面

凜が自分らしさを認めた場面

可愛くて賢い蘭と比べられることに日々小さく傷ついていた凜は、広瀬と付き合いだしてから自分を肯定できるようになったと語る。

美しい季節や自然の描写

はっとするような風花雪月の繊細で美しい描写がよく出てきて、思わず声に出して読みたくなる。

季節の草花の種類が豊富に出てくるところが風情あるなあと思う。

「だって、ママの竹の子ご飯は最高!」
夕食は、竹の子とグリンピースの炊き込みご飯。菜の花のおひたし。あさりのお吸い物。空豆と桜えびのかきあげ。食卓に春があふれてる。

部屋の窓から、夜空を見上げる。
春の宵。満天の星。レモンみたいな黄色いお月様。柔らかな風が、沈丁花の甘い香りを運んでくる。

海がくしゃくしゃにした銀紙みたいに光ってる。

ツタの絡まるレンガの門をくぐると、よく手入れされた、芝生のお庭に出る。
白い椿、黄色いレンギョウ、ピンクの沈丁花。たくさんの花々が咲き乱れてる。

人の醜さがほのめかされる場面

「女子って怖いよ。自分より可愛くてモテる子を『でも、あの子は性格悪いよ。』とか『男好き。』とかうわさしたりする。蘭もやられたもんね。」

「バレたっていいのよ。まわりが信じなくたって。わざと、わたしの耳に伝わって、わたしが傷つくようにって、計算して言ってる悪口だもん。」

蘭をイジメてた子たちは、自分の嫉妬とか、ねたみやひがみを直視したくないから、蘭を悪い子に仕立てて、蘭にイジメられる原因があるんだ、ってことにしてたんだよね。
ほんとに、人間って怖いね。
いくらでも、そうやって、自分を正当化できる。
自分の都合のいいように、脚色できる。

「大人はわかってくれない」という気持ちを思い出させる場面

「そうだよな。なにもい死ぬことはないよな? 死ぬ気になれば、なんでもできるんだ。」
「パパ、それは違うと思うよ。」
蘭が言う。
「死にたいくらいつらいときには、なんにも考えられないと思う。」

大人たちが、あれこれイジメについて語っているけど、なんだかずれてるんだよね。
今のパパみたいに。
そして、そのずれは、ほんのちょっとのことなんだけど、その距離が、どうしても届かないほど遠くに感じてしまう。
だから、子供は大人に相談しなくなるのかもしれない。
大人から見たら、とっても小さなこと、ささいなこと、簡単に解決できそうなこと。
それが、子供にとっては、とてつもなく大きく感じることが、あるんだよ。
大人から見たら、ばかばかしいことでも、小さなほころびの繕い方が、わからないことがあるんだよ。

子どものころ確かに「大人の考えってってなんかズレてるんだよな」って思ってた。

今、大人側になってしまってそんなことは忘れてしまっていたけど、もう既に今の子どもたちの感覚と大きな隔たりがあるに違いない…

凜がひとつ大人になる場面

広瀬の祖父が亡くなり涙を流す広瀬を見た凜は、まわりのみんな誰だって心に寂しさを抱えて生きているということに気づき、いつでも自分だけが寂しい思いをしているように考えていた自分が子供だったと反省する。

『いいこじゃないよ』番外編 石田明依 編

蘭に意地悪していた石田明依が、自分が蘭を妬んで、ひがんでいるだけでなんの努力もしていなかった自分を直視して、みじめさ、やりきれなさ、寂しさ、せつなさに打ちひしがれる話。

人に嫉妬し憎むのは楽。人間関係のトラブルの多くはここからくるんじゃないだろうか。

5作目 ほんとは好きだよ

お気に入りのフレーズ・印象に残った場面

「春は何度でも、新しいスタートラインを引いてくれるから好き。」

4月より

春は何度でも、新しいスタートラインを引いてくれるから好き。
新しいクラス。新しい教科書。新しい担任の先生。新しい春がいっぱい。

言葉の響きが素敵すぎる…

悩みがあるとテニスに打ち込む姿が印象的

4月より

自分のために、自分の好きな高校に行ったら、いけないのかな……。
頭のもやもやを吹き飛ばすみたいに、部活のテニスでおもいっきりラケットを振り回してから、家に帰って、リビングのソファでジンジャーエールを飲んでいると、

12月より

日曜日。ひとり、近所の公園で、テニスの壁打ちをすることにしたんだ。
額に汗が吹き出して、呼吸が乱れる。息が苦しくなってくる。
それでも、ボールを打ち続ける。
こうして、テニスをしているときは、無心になれるから。

悩みごとがあったり大事な選択を迫られたりするときに、テニスに打ち込む姿が好きで、とても印象的に感じた。なぜそう感じるのかよく分からないけど、必死に生きようとしているそのひたむきさに心打たれるのかな。

きょうだい愛あふれる場面

4月。蘭が進路に真剣に悩んでいるところに浮ついた様子の凜が帰宅する。自分の受験が大変だったことなんか忘れて調子に乗っている凜は母の前で「蘭は東大に行くんだよ」なんて無遠慮に軽々しく言うもんだから、蘭は傷つき怒る。そのあと二人が仲直りする場面。

姉のお調子者で軽薄なところが許しがたい一方で、素直で優しいところが憎めない。

生まれたときから、ずっといっしょにいて、全部の思い出の中に、いつもお姉ちゃんがいる。
いっぱいケンカもしたけど、でも、それ以上に、いつも、わたしのことを可愛がってくれた。

1作目では、凜が蘭に対する嫉妬に葛藤する場面がある。

パパもママも、姉のわたしより妹の蘭を自慢にしているのも知ってる。
でも、わたしは、蘭とは、ずっと仲がよかったし、蘭のことが好きだった。
(中略)
蘭は器用で、なんでもわたしより、すぐにうまくできて、いつだって、わたしはみじめだった。
(中略)
それでも……。蘭は、わたしにとって、たったひとりの可愛い妹だよ。

相思相愛。あったかいなあ。

「ひとりひとりは、みんな違うんだよ! わたしは、わたしなのに!」

6月より

今どきの中学生? その言葉が、胸にひっかかってる。
大人は、そうやって、すぐに、ひとくくりにしたがる。
でも、ひとりひとりは、みんな違うんだよ! わたしは、わたしなのに!

蘭の率直な叫びに心を打たれた。

誰しもこういうふうに思ったことはあるはず。
なのになんとなく生きていると忘れてしまって、つい他人を何かのグループに押し込めて考えてしまいがち。

6月 お互いに相手の浮気を疑ってすれ違う場面

愛されキャラ、明るくて、どこか憎めない姉の凜とは対象的に、成績優秀、品行方正、真面目、人の目を気にして取り繕ってしまい自分に正直になれない性格の蘭は、いつも、姉のほうが人気で愛されていると思っている。

恋人の三島くんとの帰り道で、三島くんは凜の話ばかりするので蘭は嫉妬して軽いケンカが始まってしまう。

でも実は三島くんの方も嫉妬心を抱えていて、蘭が太宰修治と仲良くしていることに対する不満を口にする。

「彼、この前のジュニアコンクールで優勝したよね。今度は、国際コンクールにも出るって、テレビのニュースで見たよ。ああ、ほんとにすごいなって。そんなすごい有名人と、蘭は、仲がいいんだって……自分と比べて、落ち込んだよ。」

好きな人が仲良くしている異性に嫉妬する感じとか、自分はその人に比べて相手にふさわしくないんじゃないかと自信が無くなって落ち込む感じがリアルな場面だった。そういうことってあったなあ。

わたしってば、自分のことは棚に上げて、お姉ちゃんのことで、三島くんばっかり責めてた。
でも、がまんしてたのは、三島くんのほうだったんだ。
そのとき、ざあっと、灰色の空から雨が降ってきた。銀色の無数の針が、わたしの全身に突き刺さる。嘘つきのわたしに、針千本の痛み。

美しい自然表現とキャラクターの心情をマッチさせて本当に魅せるなあ〜

このあとすぐに、三島くんが蘭に虹が出ていると電話して仲直りするんだけど、ストーリーが浅いというよりは、無駄にこじらせないようにしているというのがこのシリーズの好きなところでもある。

親子愛

(7月より)

蘭は小学校低学年のころ夜中に両親が話しているのを聞いて、自分は望まれていない子だったと知って(もちろん勘違いだけど)、そのことをずっと心に抱えて生きてきた。蘭は母に自分の夢を否定されて、ついに母にその苦しみをぶつけてしまう。そしてそこから和解する。

「蘭が生まれてきたとき、パパもママも、ほんとうに嬉しかったんだ。もう、男も女も関係ないよ。ママは、何度も『生まれてきてくれて、ありがとう。』って言って、蘭を抱きしめてた。」

蘭。まるで、生まれて初めて聴く音楽のように、自分の名前がキレイな旋律に聞こえる。

聞き慣れた言葉が別の意味を持つ瞬間の描写がこのシリーズにはときどき登場して、ちょっとエモいねえ。

8月の景色

ピアノ教室から少し歩いたところに、土手がある。
柳がゆらゆら揺れる、川沿いの道。夏草の緑の波。
夏の夕暮れの風が、涼しくて気持ちいい。
修ちゃんの髪が、夏の光に茶色に透き通って見える。

真剣に何かに打ち込むことの効用

9月より 三年生を送る会としてのテニストーナメントの場面。

ひさしぶりのテニスは、ほんとうに楽しい。
体を動かしていると、イヤなことも忘れてしまう。無心になれる。
試合の前の緊張感。スマッシュが決まったときの爽快感。
勝ったときの嬉しさも、負けたときのくやしさだって、部活を引退した今となっては、すべてが愛しい。
練習がキツかったり、後輩に嫌われたり、正直、やめたいと思ったことも何度もある。
でも、わたし、テニスがほんとは好きだよ。大好きだよ。
バシッ!
激しいラリーのあと、わたしの打ったボールが、ラインぎりぎりに決まった。

青春だねえ。

蘭の真剣な姿を見た石田明依は、妬むだけでなんの努力もしてこなかった自分の過ごしてきた時間の無意味さに気づいて、やるせない気持ちになる。

「あたしなんか、帰宅部で、部活を必死にがんばったこともない。勉強も嫌いで、テスト前に、必死で勉強したこともない。」
(中略)
「いい気になって、せせら笑っているうちに、自分は、どんどん置いていかれた。蘭や三島やみんなは、努力したぶんだけ、あたしの知らない『幸せの時間』をいっぱい経験していたのに。今日、それが、はっきりわかった。あたし、今まで、中学でなにをしてたんだろう。」

周りを小馬鹿にして自分の成長が停滞している間にどんどん置いていかれていくのって、ちょっと心当たりがあって…。大事な気づきだと思う。

「男子、三日会わざれば刮目して見よ」ってその通りだと思うし、逆に自分だって集中してなにかに取り組めばそうなれる可能性を持っているということは常に忘れないようにしなきゃと思う。

「ガラスみたいに透明な、ひんやりした秋の風が、わたしの頬をなでていく」

11月より

木立は紅葉が始まっている。土と落ち葉の匂いがする。
あちこちに散らばっている黄色い銀杏の葉が、地面に模様を描いている。
ガラスみたいに透明な、ひんやりした秋の風が、わたしの頬をなでていく。

蘭が、ずっと一緒にいた幼馴染の太宰修治からパリにピアノ留学に行くことを告げられてショックを受ける場面。空気そのものを宝物にたとえたような表現に、二度と戻らない時間の儚さを感じて、切ない。

蘭の未練を感じさせる場面

11月。修治は三島と別れて自分と付き合えばパリ行きは取りやめると言って蘭に選択を迫った。それからしばらく蘭はそのことに頭を悩ませることになる。

12月。日曜日、蘭は一人無心にテニスをする。心が整理されてとうとう吹っ切れた蘭は、文章の勉強をすること、音大付属へは行かないこと、修治とはつきあわないことを決意しそれを修治に告げる。

1月。疎遠になっていた三島くんの思いやりに気づいた蘭は、三島くんこそ本当に好きな人だと告げる。

「修ちゃんは、ほんとにいい友達。でも、わたしが、いっしょにいて、ほっとできるのは、三島くんなんだ。三島くんじゃないとだめなの。」
人を傷つけて自分も傷ついて、それで、やっと、自分にとって大切なものがなにか、わかったの。見えたの。
ほんとに好きなもの。好きな人。
だから、もう、わたし、迷ったりなんかしないよ。

今後の高校生編の話を知ると、ここの場面は本当に自分に正直だったのだろうかと疑っちゃう。もう迷わないと自分に言い聞かせただけで、本当は迷っていたんじゃないかと思う。

しかし三島も三島で最初から凜への未練が断ち切れず釈然としない感じだったので、作者は最初からずっと二人の微妙なすれ違いを表現していたんだと思うと見事だなあと思う。

修治が蘭に『別れの曲』を弾く場面

12月。蘭の決意表明でパリ留学に行く決心がついた修治は蘭に『別れの曲』を弾く。

横浜市立中央図書館の閉館の音楽が別れの曲だから、図書館に閉館まで居るといつもこのシーンを思い出して涙が出てくる〜


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